東京ヒップを超えてゆけ!

流儀 ATTITUDE 〜校正力と進行力の二刀流〜

神村嘉隆 × 桑島浩 × 原冨悠 × 澁井満 × 宮本泰成

「東京ヒップはほかの会社とはちょっと違う」。クライアントにかけられてきた言葉だ。
不確実な時代、誰もが失敗やミスを恐れている。誰もが心あるプロの仕事を求めている。
20年かけて、実行力となって磨かれ、知見となって蓄積されてきた、東京ヒップの流儀とは?
校正力に進行力を掛け合わせ、クライアントの課題解決にリーチする座組だとは言えないか。

HISTORY

2009年(平成21年)

3月

・ADKアーツ(現ADKクリエイティブワン)との取引開始

6月

・株式会社ウイラ(現株式会社アレックス)との取引開始

12月

警視庁捜査⼀課より問い合わせ

2010年(平成22年)

5月

・第⼀回「井上杯」開催

7月

・加茂さんが福利厚⽣案件(ベネフィットワン:本所TGC出向)で地獄をみる

・ダイエーチームからスーパー・エースである池⽥さんが抜ける

 澁井さんの元、残されたチームはより⼠気を⾼めた

・東陽町DEPO近くにある場末のスナック「まんぼう」で夜な夜なダイエーチームの飲み会が開かれる

 終電を逃した桑島さんはカプセルホテルで、池⽥さんは道路で寝ていた

・出勤前公園で宮本さんがハーゲンダッツを⾷べる→空箱に澁井さんが煙草を捨てる→それをDNP⾚⽻チラシセンターのごみ箱に捨てる→「チラシセンターの作業部屋でタバコを吸った奴がいる!!」とDNPが騒ぎ出す

 東京ヒップが疑われたが「ふざけんな」とキレ返して事件は迷宮⼊りに

2011年(平成23年)

3月

・震災避難で神村さんと塩沢さん再会

・下版中だったダイエーチームが3/11の影響で⾚⽻に隔離される
 下版中⽌&帰宅不可という状況のため電⾞が動く明け⽅まで飲み続けること

・徹夜で下版後DNP榎⽊町⼯場を追い出された澁井さんと宮本さんが仕⽅なくファミレスでダイエーチラシの指定紙作りをする

 寝不⾜で疲労困憊だったため「事務所(徒歩圏内)に帰って作業する」という発想ができなかったらしい

・ダイエーチームからビッグ・ボスである桑島さんが抜ける

 澁井さんの元、残されたチームはさらに⼠気を⾼めた

2012年(平成24年)

4月

・シャディ校正受注

6月

・東京ヒップ10周年

・⻑らく東陽町DEPOを拠点としていたダイエーチームが飯⽥橋事務所に移動

・ダイエーチーム内(というか辻井さん)でヨーデルが流⾏

 四六時中かかるヨーデルにさすがの弥⽣さんも苛⽴ちを隠せなくなる

・汐留ルーム開設(東北⽀援)

11月

・⽉刊応⽤物理0校校閲事務局受注

2013年(平成25年)

4月

・JCB加盟店DB事務局受注

東京ヒップは、ダンクグループとしては厳しい状況のなかで「脱校正」を掲げ、「新しい仕事」「面白い仕事」獲得を目標に始まった。

仕事先を開拓したり、アプローチを変えたり、窮状でなければ踏み込まなかったかもしれないさまざまなトライアルを重ねた結果、つかんだものは、原点ともいえる校正の強みと可能性への確信だった。今、東京ヒップとして、持ち前の新しい・面白い視点で見直し、プロデュースや、全体進行・品質管理の内容に発展させていくことで、ゆるぎない信頼や、お金に換わる価値を積み増している。

ダンクが同じ校正の仕事で大クライアントに規格通りの仕事を納めるという型を強化していった経緯とは好対照とも映る。 ヒップとダンクが違うルートから同じ頂上を目指して合流した今、発展期を牽引するメンバーの思いとは。

校正の基礎体力+α=東京ヒップ

桑島 俺、ヒップもダンクも相当長いことやってるんで、経験値もノウハウも、相当たまってるんすよ。それをちゃんと言語化、明文化してアピールしたくて。わかりやすく見える化すると、信用してもらえる。社内のチームで、すごくいいやり方をしているのに、対外アピールが全然弱いのがもったいなくて。池田とか森さんみたいに、コミュ力高い人は口頭でもしゃべれるんですけど、そこまで全員しゃべれなくてもいいので、ノウハウを体系化したものをウェブなり何なりで発信してくとか、体系化していけば、もっと信用が得られていくだろうなって。

—— 森さんもおっしゃっていました。「外に出ると雑なものがすごく多くて、それに対してちゃんとフォローしてあげるとすごく喜ばれて、仕事につながっていったんだ」と。「校正の仕事は完全で当たり前というものを納めるから、その価値に対して社内でも評価が普通だったかもしれない」と。新しいものや楽しいことを探して、ヒップ発でいろいろなことをやろうとしていた「ヒップイズム」が堅実な「ダンクイズム」と合流して総合力を高めて、校正を扱ったら、すごく面白くなるのでは。

桑島 競合を考えても、ニッチな世界ほどいいなと思ってて。意外とメジャーな、よくある仕事をしちゃうと、そういうノウハウはありふれている。でも、ニッチなほどどこにも情報がないんで、誰も分かんないんです。こういうやり方やるんですよっていうのを発信するだけで、そんなふうにやるんだってことで喜ばれるし、差別化になると思うんです。

—— 実感したエピソードはありましたか。

桑島 普通にお客さんと一緒に仕事していて、仕事っぷりを見てもらうだけで喜ばれることはよくあるよね。

澁井 そうですね。

桑島 うまいこと回すね、みたいなね。

澁井 ありますね。


校正視点と顧客視点、二刀流から培ったスキル&マインド

原冨 みやもっちゃんとか、結構あるんじゃない? 普通だと思ってやってるのを見られて、評価が得られるみたいな。

桑島 一番、喜ばれてるじゃん、お客さんに。

宮本 出向していたときにお客さんに言われたのは、ちょっとした気遣いでもそれを普通にできない人がいっぱいいる中でよくやってもらえてる、とか。校正レベルでいうなら、ディレクターチェック、出稿前のチェックでクリティカルなのを拾ったりすると、ディレクターは全員ざるだからこういうのは拾えないっていうので感謝される、とか。ヒップの人の強みって、校正できることもそうなんですけど、校正に取り組んで、さらに仕事の流れや品質管理まで思いを巡らせることができる。一定の精度を保った状態で業務設計もチェックもできるから、どんな不備があるだろう、起こり得るだろうって向き合うことができる。校正で学んだことって、そういう感謝される基礎体力の要素になってる。それは強みだなと。あとは柔軟な姿勢で一生懸命、頑張ることです笑。

—— 絶対的な正確さと、柔軟な対応が揃ったら無敵ですね。

宮本 校正以外でも、例えばエクセルデータ編集とかを扱うにしても、得意な人はいるんですけど。それでも、マクロは組めるけどチェックは雑とか、そんな感じが少なくない。東京ヒップは、完璧なデータをここで決めなきゃいけない、作んなきゃいけないってときに、きっちり決めたものを作れる丁寧さや精度の良さがある。それは、強みだと思いますね。あと、取り組み姿勢もよく言われました。出向先には他社の校正の人も結構呼ばれていたんですけど、中にはいるんです、うちみたいにいろいろやれる人が。でもそういう人はごく少数だし、重宝されるから、がっちり仕事範囲を線引きされて、よその現場に取られたりしていました。うちみたいにあまり線引きしないでフロー全体をサポートする取り組み姿勢は、お金の折り合いをつけるのがすごく難しかったりするんですけど、それでも線引きしない精神で一生懸命取り組んできて、その精度と希少さが重宝されてる。

桑島 校正マンなのにコミュ力高いってレアだよね。

宮本 言うほど高いわけではないですけど。でも、いるかいないか分かんねえみたいなオーラをずっと出し続けてる人はいっぱいいて。ぼくが出向して最初に思ったのが、世の中の校正マンがこれだとすると、うちの人たちはこれじゃないわ、だったんですよ。

校正の仕事とは。
人が前面に出ないことか。
正しくて当たり前なことか。
既存イメージの枠からはみ出さなければ、その通りかもしれない。
そのイメージに迎合せず、枠を壊さなくとも広げることができるのが東京ヒップだ。

100点目指す校正よりも、120点の満足を渡す付加価値を

宮本 いわゆるカチカチの校正していた他社の方は、頼まれたことだけをきっちりやっていた。でも、重宝されたのは、気が付いたことをアドバイスしてあげるとか、それよりもこれやりましょうといった提案とかアドバイスの部分だった。ぼくは頼まれたことだけやるというように仕事を意識的に分けたことは、あんまりないかもしれないですね。

原冨 でも世の中の校正のイメージって、100点満点が当たり前っていう感じがあると思うのね。100点取るのが校正の仕事。だから人が前面に立ってこない。うちは100点を超えてく、校正で120点出すところを目指してくっていうのはあったんじゃないかな。でも実際は、校正で100点満点取るのってすごく難しいから、足りない分を他で補足しようっていう、姑息な笑。

澁井 ダンクはね。国井さんとかをはじめ校正に重きを置いてきた。一方ヒップって、いい意味で校正を全体の部分として扱うイメージ。

原冨 イメージね。

澁井 もちろんちゃんとやるんですよ。ちゃんとやるんだけど、マインドとしては校正はプロなら誰でも同じことができるんだという前提。なめてるわけではなくて、ヒップは校正の必要レベルをきっちりカバーしたうえで、それだけじゃない新しいことを、面白いことを、っていう付加価値を考えてきたイメージですね。

原冨 校正で100点満点を目指すぐらいだったら、校正の90点プラスなにか。プラスアルファで20点取って、トータル110点で先方の想像以上のものを返す。もしかしたら100点満点の校正より喜ばれることを模索してる。

澁井 校正って「言われたことをきっちりやります」がイメージ。でもヒップは「全体が良くなるようにいい感じにやります」がモットー。そのトータルパフォーマンスでも信頼されるように意識してきた。普通の校正会社となんか違うよねって言われるのは、そのフットワークの軽さだと思う。相手にいちいち細かく聞くよりも、相手のことを思ってこんな感じでどうですかと提案できる仕事が、今後もはまる仕事のイメージですね。

神村 ちょっと語弊のある言い方になっちゃうんだけど。ダンクは国井さんが中心になってずっとやってたことで、とにかく100%の校正がメイン。なおかつ教わる方もあんまりコミュニケーション力は求められてこなかった。あとはダブルチェックをやるんだというルールがきっちり確立してたんで、それ以外の運用を考えなくなってる節があるんじゃないのかなって思ってて。本当は全体のことを考えながらやるのが一番重宝される。それなのに考えない方向に移っちゃってたんで。

—— 言われた通りの仕事だけではなく、プラスアルファがあればうれしいというニーズにどう働きかけるか。


神村 おそらくはこちらもそれをしていかないと、お客さんがこれやっといてって、ぽんと置かれたことをやるだけになっちゃう。

原冨 制作フロー全体の課題って、校正のパートだけじゃない。校正のパートだけで100点満点取ったところで、前後での課題が解決できなかったら結局、制作物としての点数はトータル100点にはならない。だったら校正の部分は70点でいいから、その前後の50点の部分を70点にしてよとか、そういうところのニーズに応えてく。

桑島 これまで何となく企画と制作とフィニッシュが分業されているようなマインドがあって。そこから外れられないと、遠慮も出るかもしれない。品質管理の目で全体をとらえていく必要がありますね。



やらないことを決める柔軟さ

澁井 ダンクは案件とか費用感にもよりますけど、校正をダブルでやる品質を担保していて。ヒップはどっかの段階からシングルで。マインド的にシングルで抑えるもんだよっていうのもあったし、費用的にどうなのかっていうのもあった。

原冨 もともとはダブルでやってたよ。

桑島 案件によるの、結局。必要があればやったほうがいい。

—— ダブルチェックにかけるマンパワーで、もっと違うこともできるだろうっていう考えもありましたか。

桑島 そんな素晴らしい考えはなかった笑。単純になんか腹立つなと思って。

神村 金だよね。やめちまえ派は桑島さんか池田さんだから。

桑島 ただ、大修正とかぐるぐる繰り返してるケース、これは1人でやるのは絶対やばいでしょうっていうものは、怖いからちょっと見てとかありましたね。

神村 1人でやって事故ってるもんね。

桑島 そこの見極めだよね。

—— ダブルチェックをやらないと決めたことで、それに代わる何かが始まる流れができたのでしょうか。

原冨 やらないっていう選択肢を加えたっていうのは結構でかいんです。校正をもれなくきっちりやるというのは、きちんと順序立てて、工程を網羅していくものだというアンタッチャブルな領域でもあったから。そこから引き算する考え方はあんまりなかった。そこに、選択肢としての幅をひとつ広げたんだろうなとは思います。単純にダブルでやるのをシングルにしたというだけじゃなく、違うやり方をやっていいんだというマインドにリセットした。それは、ヒップ創生期のいろんなことをやってみようという頃から始まってたのかなとも思います。

—— 躊躇なく視野を広げられた。

原冨 ヒップのこのやり方って、あんな感じで立ち上がって、紆余曲折あって。その後、ダンクのやってたものを遠目で見ながらそれをちょっと持ち込んだけど、体系的に何をどういうふうにやってくかっていうところで、やり方までは固まってなかった。

桑島 良くも悪くもね。



東京ヒップのコミュニケーション

桑島 仕事として、信用の求められるものをAIだけで対応して、それをOKする企業ってまだあり得ないと思う。専門性のある人に必ず見てもらうっていうのは、むしろ必要。

—— そのニーズも高まっていますね。正確さや信頼度に加えて、数値化できない人間らしさの加味された進行や編集が求められている。

宮本 コミュニケーション能力という点でいうと、雰囲気を悪くしないとか、そういうことからでもいいのかな。本当にやろうと思えば、ひたすら机と向き合って終わることだってできる仕事ですし。今いる4階フロアは、元ダンクと元ヒップが同じ所に合併して集まってる状態です。ぶっちゃけ今の時点では元ヒップの仕事をやる島、元ダンクの仕事をやる島で、まだ全然、雰囲気が分かれてまして。それを一つにしていくのに、どうしたらいいんだろうなと。手始めはそこですよね。そこがまず混ざんないと。だって、他のフロアは、同じチーム、同じ仕事をやってるから、所属が何だろうが、一つになってくるんです。4階は、独立して完成しているチームが二つ居合わせたところ。真っ先に、4階をまず一つにしなきゃだなと思います。

—— やりがいありますね。

宮本 稚拙な言葉になるけど、やっぱり雰囲気づくりからかなって思ってます。コミュニケーションのとりやすい雰囲気。何をすればいいのかは難しいんですけど。なくなる前のヒップについても、コミュニケーションづくりは課題になっていました。「人がどんどん減ってって静かになっちゃった」と感じる人が増えて。

—— コロナもありましたね。

宮本 じゃあどうすれば活気が出るのか。活気ってつくろうと思って簡単につくれるものでもないし。自分なりの取り組みはしてみました。形にするのが難しいとしても、目的のあることは、諦めちゃ駄目だと思ってます。

—— 東京ヒップといえば節目ごとのイベントも力が入っていましたね。

宮本 その辺、ビッグボスがいろいろやってくれたので。

原冨 周年? 納会とか。

宮本 まとめてくれてたじゃないですか。

原冨 むちゃくちゃたたかれた笑。

澁井 たたかれた?

原冨 時間かかり過ぎだとか、金使い過ぎだとか。一回ちゃんと 会長に怒られた。

澁井 そうなの?

原冨 「やり過ぎだ」っつって。その翌年に「去年は怒り過ぎた」っつって笑。

宮本 適材適所で、得意な子っていて。例えばコロナ禍で子どもの保育園の送迎があって飲み会に行けないという状況で新人が入って。歓迎会をしたいねって雰囲気を田島さんが引き受けてその場でぱっと開いて飲んでくれた。あれって本来、自分がやるべきでしたけど、結果的に彼女がやってくれてよかったなと。 得意な人が手を挙げて得意なことをやれるような組織っていいなと感じます。

桑島 それはそうだ。

原冨 この座談会の第3弾のメンツは女性陣なんです。ぼくらが考える仕事の楽しさとかとは違うけど、彼女たちも楽しそうにやってるなと思う。こちらが押し付けてるわけじゃないのに、どうやったらこの空間で楽しんで仕事できるかを見つけてやってくれてる気がしていて。それについて、次の座談会で話が聞けると面白いな。神村さんとか桑島さんもよく言うけど、仕事する上では楽しく仕事するんだっていう、この空気は結構うちに根付いてるなと思います。

—— 東京ヒップに通底するマインド。

神村 もともと長時間労働のダンクだったんで、そのままヒップも長時間労働だった。今はちゃんといい時間に帰れるようになってるけど。俺なんか、最初に付いて仕事をしていた人が、「仕事は仕事、プライベートはプライベート」で、ぱきっと分けるタイプだったんだけど、自分は300時間も400時間も会社にいるとプライベートとなんか分けらんねえ。だったら、会社にいる間 楽しくやってたらいいんじゃないのって思うようになって。人生の中で結構長い時間会社にいるんだから、嫌だなあなんて思うより楽しめばいいじゃない。周りに押し付けはしないけど、極力、そういうふうに動いてった。

宮本 そうですね。本当に。ぼくも入社1年目のころは意思疎通が図りにくい相手のために自分を抑えて我慢してみたりしていた。でももう全部いい思い出です笑。

職場で楽しく働く空気を作るには? 
おそらくどの企業の管理職もそのことについて心を砕いている。東京ヒップのリーダーたちも例外ではないけれど、そのことで苦心する風でもない。ここにも「コミュニケーションのヒップ」カラーがにじんでいる。

仕事やポジションに対して立候補を受け入れるのもそのひとつ。要件にマッチした意欲あるメンバーが手を挙げるから、本人の希望が加味されない状況は起きにくい。業務はリーダーとのコミュニケーションによって補足され、本人の挑戦とリーダーの支援のバランスも取りやすく、専門性を高めることに向かっていきやすい。職場の楽しさは、自ら醸成するのだ。

リーダーたちは、メンバーの希望や生活スタイルを柔軟に仕事に反映することで、その人が思いもしなかったセンスや才能を開花させる風土を、後進に継承しようとしている。

楽しんでいる場所に人は集まる。校正の仕事を軽やかに見立て直すことを楽しむ集団からは、これまでにないマインドやアイデアも生まれてくるだろう。
新しい仕事を追い求めてきた彼らのさしあたっての大仕事だ。

原冨 多分、ダンクの連中も楽しんでると思うんす。われわれの思う楽しさと違うだけで。

澁井 嫌だったら辞めてる。基本的にはみんな、校正が好きな人たちが集まっていますから。

原冨 そう。ただ選択肢がなかったのかなって思って。AもあってBもあってCもあって、今Aを選んで、楽しんでやってるんだったらいい。だけど、AしかなくてAは楽しいんだって思い込んでAをやってるんだったら、BとかCとかもちょっと見せてやりたい。選択肢を与えて、その中で選んでほしいなという気はします。

澁井 ダンクは全部のチームが太客の大型案件を持っていて、その中にリーダーがいて、その案件ができる人を育ててきたから、対応できるスタッフは生命線。どうしても囲い込みになっちゃうんですね。それはしようがないとも思う。そういう案件のもとで2年、3年かけて育てた人を他のチームにあげたくないっていう気持ちもあるだろうし。だから、役割の決まった縦割り組織になっている。

—— 限定的な範囲内で積み上げていくキャリアは、一見専門性を高めているようで、実は、その人の想像力や可能性を狭めたり、別の仕事での才能を開花させるチャンスをなくしたりするかもしれない。

澁井 うん。こいつ、すげえいいやつだから、そっちのチームにあげるよなんていうことには、なかなかならない。ヒップの場合は流動的な案件が多いから、マトリックス的な組織になっていて。これが来たら、あいつ、今、空いてるからそれやればいいじゃん、じゃあ、こいつも入れてやればいいじゃん、とかって、新しい座組みがやりやすかった。ここ埋めるのに、あの人とこの人で埋めたらどうかなって、玉突きや交換がしやすかった。

—— 人を中心に据えてそこに仕事を付けていく。斬新で柔軟で、個々の成果を評価しやすいですね。

神村 案件の中で、これしかやらせないってのが多いと、かえって覚えない。だから想像力が広がらないみたいなのがある。本当は案件の中でも同じパートばかりじゃなくて、リーダーがやってることをやってくれとか、そんな大胆な配置をもっとやっていけば人はどんどん変わってくはずなんだ。そこがうまくいっていないのが現状のダンクなんだろうなと思う。それができるようになったら、リーダーになる人とか、他のキャリアに進む人とか、もっと出てくると俺は思う。

澁井 それを俺はちょっと強引にやりだしてて。ヒップ側の出向案件に、この人持ってっちゃうよ、とかって言うんです。そこを抜き取ったら、ここどうすんのとか、すげえハレーションが起きるんですけど。でもそういうことは今までしてこなかったから。下から持ち上げて誰か入れてやるといいんじゃないかっていうことをやりだしました。一回、壊して、人、引っこ抜いて、新しいことをやってみる

—— アンタッチャブルに手をつけた。

澁井 ダンクに移ってからリーダーたちとも話はしてきたので、リーダーたちはみんな理解してくれるし、協力しようとしてくれる。例えば、Aさんはこんなに優秀だし、今こんな案件があってチャンスだし、Aさんの先のことを考えたら、やってみるのがいいんじゃないかって話を提案します。そのとき同時に、大案件からAさん抜いたら大変だとか、頭抱えるのがダンクだった。気持ちは分かるんです。だから人を抜いて終わりじゃなくて、抜けた穴は、どうすべきか、じゃあBさんを入れて、こうかな、というところまで責任持って関わって新しい配置を考えます。それを理解してもらえるとリーダーたちも必ず共有してくれる。その辺が変わってきてる感じです。

—— 働き方のイメージが固定してしまうと、誰かが抜けたら困るといった守りのスタンスに偏りがちですけど、そのことで後継者の育成や新しい組織づくりにつなぐことにシフトできれば、攻めの循環も始まっていきますよね。

澁井 そこが少しずつ、今、変わってきてると思います。

神村 いいと思いますよ。そうだと思いますよ。

桑島 本当は、いなくなったらどうするんですかって怒るより、ぜひ出してくださいってなりたい。多分、それをやると誰かの仕事がかぶることが心配で、いいですよとは簡単に言えなかった。でも本当は、それをやったらきっと成長するかもという方に目を向けて、やらせたいですって言えるほうが健全だよね。

澁井 リーダーたちは責任感が強くて、すごい真面目なんです。その案件を守っていかなきゃいけないっていう実直な気持ち。その守りが縦割りの中では強くなりがちなので、リーダーも孤立させないように柔軟的な意見を持ち込まないと。これまでは、リーダーとしては、自分に責任があるから、じゃあ、Aさん抜いたら俺がそこの現場やりますよって感じになってたんです。現場に落ちたら落ちたで、リーダーなのに現場ばっかりやってって言われることまで気負っちゃう感じの循環だった。そこを何とか話して理解してもらうんですけど。

桑島 そんなこと言わないでしょう? そもそも、リーダーが現場持つって普通だよね。持たないって誰が決めたんだって思うよね。

澁井 言われないけど気にはなるのかな。現場を持つのはいいんですけど、それで手いっぱいになると、人の管理はどうするのとか、柔軟な運営はできるのとか、そういったことを考えるのが後手になってくるのはあるかなと。リーダーが穴を埋めることをセーブして、下から増やしていくことにも目を向けていけばその心配も変わっていくと思う。ある程度リーダーの手が空いていて余裕が出ていれば、そこは派遣さんで何とか埋められないかとか、採用を進めて新人を増やしてバッファをつくったらどうかとか、考えも生まれてくるから。

—— リーダーも、スタンドプレーですべて引き受けるのではなく、楽しく後継者を育てるコミュニケーションやヒップ流のリーダーシップを変わらず発揮していく。

澁井 うん。かな、とは思うんですけどね。今いるリーダーたちもザ・ダンクって感じからは抜け出していってますね。

神村 これまでは今ある現場を埋めることを何とかしなきゃいけないと思ってきたから。考え方を変える。じゃあ、そこに2人入れて仕事は1個増やしてよみたいなことが言えるんだぐらいの感じを持ってもらえると一番いいんだけどな。

—— 仕事の定義も変わりますね。受けたものを返すだけではなく、違う価値を加えるとか。次のアクションにもつながっていくんでしょうか。

桑島 難しいとこだけどね、結論として。

原冨 これが本当、難しくて。人を増やすと、今度は1人当たりの生産性が落ちて、もっと効率よくやれって言われだすんですよ。そうすると、現場は生産性を上げていくために少数精鋭になってきて、バッファがなくなって、人増やすとまた生産性が落ちて怒られて…みたいな。そこは難しい。バランスが。

澁井 そのバランスを現場で感じ取ってるリーダーが一番大変だと思うんですよ。教育もして、生産性とバッファのバランスも見て、いろんな新しいこと考えて……みたいなことに、リーダーが直面し続けている。自分もリーダーやって長いですけど、そこの理解を一緒に考えていければいいかな。

—— しょうがない、自分がやるしかないみたいに抱えていたマインドから脱却して、そこに対しては信頼がどんどん広がっているから、人を巻き込んでやっていくかというステージですよね。

桑島 好き勝手、言い過ぎだぞって笑。

澁井 俺が一番、大変だったぞって笑。

神村 桑島さんが、専門家を名乗っていれば信頼されるって言ってたでしょう。先方は安心が欲しいっていうところがある。澁井さんが言ってた 「いい感じにやります」ってそこに応えるみたいなことなので。俺もまだ言語化してないけど、この間からずっと考えてた。人って安心したい。楽したくて安心したいから、そこを担保してあげるのがうちの役割なのかなと思ってて。

—— そうですね。だれだってミスしたくないし、リスクを侵したくない。そこに寄り添ってあげられるプロ集団ってすごいしかっこいいなと思います。

神村 プロっていう定義をどうするか。

桑島 やったこともないことをプロって言うんじゃないですからね。そこはちゃんと線、引かないと。

神村 みんな制作媒体のプロセスコントロールが、ある程度できるようになってきてるよね。

桑島 そこも結構、自信持ってプロって言っていいんじゃないかな。

神村 ものを作るのって大変で面倒だから、お客さんも、間に入ってる代理店も、うまくいい感じにやってくれる所を求めてるんですよね。企画は出すから、あとはそのアウトプットを確実にやってくれる人に託したいっていう考えだと思うんで。

—— 新生ダンクにつながりそうですね。それでは今みなさんがここから目指すことを伺ってよろしいですか。

神村 俺はもう今、全然、ここの人たちと違うことをやってるんで、今後はそれをある程度形にしなきゃと思ってます。自分の中ではまた20年前の東京ヒップ立ち上げと同じぐらいの気持ちです。ぽっこちゃんが国民的キャラクターになるように頑張ります。

澁井 ぼくはマネジメントに向き合わなきゃいけないと思ってる。リーダーとは違うマネジメント。第一線で教育して、モチベーション維持もしていくリーダーをバックアップする立場からフォローしていかなきゃいけない。できるだけ現場に近いマネージャーでいたいと思ってます。一番は現場がどう働きやすいか。いろんなことがあるかもしれないんですけど、今いるリーダーたちを信頼してます。正直いえば、会社の上の人間たちと付き合わなきゃいけない立場ですけど、それよりも、下と付き合うことのほうが大事だと思っているかな。上をないがしろにするわけではなくて。

—— ヒップイズムをダンクに持ち込む。

澁井 はい、今のところはまずそれかもしれません。あとは上との関わりの中で、会社と現場の架け橋になる役割。メンバーが納得して、ビジョンに向かっていけるようにする中間の役割なのは分かっている。それができるように試行錯誤ですね。あとはもう、自分が嫌にならなきゃいいなって思ってます。

宮本 これ、心配すべきは澁井さんの上の人たちですよね笑。

澁井 この大役が自分にできるのかどうかっていう不安です。モチベーションがね、もう年なんでね、保守的になってっちゃわないようにしなきゃいけない。

—— でも、ここにいるという存在で、化学反応を起こすこともあるのでは。

澁井 そうなれるといいんですけどね。

宮本 澁井さんの存在、安心感あります。ダイエーチームにいたときからずっといろいろ話を聞いてもらって、相談に乗ってもらって。だから、リーダー層は頑張ると思いますよ。

澁井 とにかく俺、上から嫌われてもいいから、リーダーからは嫌われたくないと思ってますよ。

宮本 私は一言で。今までにない勢いが出せるといいなと思います。せっかくヒップって名前がなくなったんで。ヒップの名前がなくなったってヒップのスタッフは全員いるわけで。一番初めに桑島さんがダンクになっても自分は変わらないって言ってましたけど、そのとおりだと自分も思ってて。他社から見たヒップの良さは、人がいる以上、残り続けてる。絶対に。名前がなくなったからってなくなるものではないと思うので、それがダンクと混ざったことで、ダンクに今までなかった勢いみたいなのが出せると理想。今日、話してて、質問いただいて答えて、答えた内容を後で時間差で考えたりしてたんですけど、めっちゃ難しいこと言ってる気がする笑。

桑島 俺は考えたけどないんだよな。 加藤さんを男にするかって思ったんですけど。そんな気ねえなと笑。いい意味で、せっかく一社化したんで。人がぐるぐる循環する会社にしたい。循環しないと人は成長しないんじゃないかと思うんです。1カ所にずっといるとなかなか難しい。それをするには、リーダー級をあと何人増やせるか。当然サービスも良くしてかなきゃいけないんですけど。個人的にいうと、ウェブの販促が成果も出始めていて、それを専属でやりたいぐらいですけど、なかなか。それだけは駄目だって怒られそう。だから、澁井さんと宮本さんと協力して。やろうよ。

原冨やることは変わんないっていうところが肚落ちしてます。よりどころとしての東京ヒップという会社名とか、よりどころとしての神村さんとか、よりどころとしての俺とか、東京ヒップって何?っていう象徴が解体されて、分散して、なくなっていったけど、東京ヒップマインドというものは、ある程度根付いたんだって。東京ヒップの名前に頼らなくても、仕事の流儀や、仕事のやるべきことや進め方が、浸透したんだろうなと。今話していて、東京ヒップが生まれてきて、本当に役割を果たしたから、新生ダンクになっていくんだっていう、ここのストーリーはすごい自分の中でしっくり来たなと思って。どうすか。上手な締め方じゃないですか。

宮本 ヒップからの卒業ってことですよね。ダンクとの合併じゃなくて。ヒップって名前に頼らなくても、みんなやっていけるようになったっていう。うまいこと落としましたね。

原冨 だってもう、ずっと考えてたからね。

(2023年5月9日 株式会社東京ヒップ(現ダンク)8F応接室にて収録)

ー言録・井上弘治ー

「現場の仕事は当然現場の責任である。 責任という緊張感を客観的に眺めるもう一人の自身を創造することも大切だ」
―――【2016:腑(ふ)】より

 

「ただ「危機だ危機だ」と騒ぎ立てても意味がない。現状を見極め、それにどう対処していくのかという分析と実現がなければならないと思う」
―――【2020:評(ひょう)】より

「浮遊感を感じながらそれでも現実ときちんと繋がっている状態。繋ぎとめておくためにはやはり知識と教養とそれに裏打ちされた思考力を養う必要がある」
―――【2021:浮(ふ)】より